妖孤伝説 2
三蔵の苛立ちに は微笑んで頷くと
「こちらの万葉さんは 妖孤なんです。
つまり狐の妖怪です。この村も 隠れ里と呼ばれるもののようですよ。
彼女は 私たちの正体を見抜いていてそれで怯えているということです。
三蔵は人で、八戒と悟空は妖怪、悟浄は半妖でしょう。
私の正体は謎だったみたいですし、怖がっても仕方がないです。
それに 途中で感じたのは 結界だったみたいですから、それを潜り抜けて
やって来たのも不思議でしたでしょうし・・・・。」
三蔵は 一度頷き を促した。
「で? 亭主を捜していた本当のところを 聞こうか。」
万葉は その言葉に真相を話し出した。
「ここのところ この村に住む若い男の妖孤が次々と行方不明になっていまして、
皆で捜すのですがどうしても見つからないのです。
夫は いなくなってから 既に半月もたっており
最初は手伝ってくれていた村のものも今ではなくなり
私1人で探しているのです。
夫の後も 行方不明のものが出ているので、
その者を探す方に 皆が力を入れますし
もう あきらめた方がいいと言うものも いたりして・・・・・。
ですから もし 妖怪に襲われたのなら せめて遺品でもないものかと、
森を捜しているのですが・・・・何も見つからなくて、
あきらめ切れない思いでいるのです。」
話の途中から 万葉は泣いていた。
その背中を 労わるように撫でながら 「三蔵 何かお力になれないかしら?」と
は 三蔵に言ってみた。
この旅の決定権は 三蔵にある事は、みなの暗黙の了解になっている。
三蔵がダメだといった場合 それはそこで諦めなければならないからだ。
は 三蔵の顔色を見て 行方不明の妖孤を捜すのは 無理だろうと考えた。
三蔵は 無言の内に 否定的な空気を纏っている。
「三蔵 これがただの行方不明なら 問題は無いのでしょうが、
人間ではなく妖孤がいなくなっていると言うのには ちょっと引っ掛かるのです。
せめて 原因だけでも調べさせてくださいませんか?
三蔵にお手間は取らせませんから・・・・・。」
は三蔵が ダメだと言う前に先手を打った。
「 俺手伝ってやるから 心配すんなよ。」
悟空は 明るく手伝いを申し出てくれた。
を守ることには 妙に責任感を発揮している。
悟空の肩に乗っているリムジンが 悟空の頬に擦り寄って お礼に小さく啼いた。
「解ってるよ、リム。」悟空はそれを うれしそうに受け止めた。
「お子様は 動物を手なずけるのがうまいね〜。リムは 悟空にベタベタじゃん。」
微笑ましい様子を 悟浄がからかった。
ジープは 八戒の肩から悟空の開いている肩へと移り、同様に懐いた後
リムジンと2匹で の元へと飛んでいった。
は 三蔵の返事を待ちながら、その2匹を撫でている。
三蔵は次の煙草に火をつけて その様子を眺めていたが の顔を見ると
「勝手にしろ。」とだけ言った。
それを聞いて笑顔になったは 「ありがとうございます、三蔵。」と嬉しそうに言った。
「 良かったですね。
ジープとリムも協力するようですし 僕もお手伝いしますよ。」と 八戒が申し出た。
「ありがとう八戒。
実は 八戒にはどうしても協力してもらおうと思っていたの。
村の人になった振りして 誘拐されてもらおうかと思ってたから・・・・・。」
その言葉に八戒は 思わず苦笑した。
「人が悪いですよ 。
でも 確かにこの4人の中で、妻帯しているように見えるのは僕だけですが・・・・・、
もちろん奥さん役はがやって下さるのでしょうね。」
「まあ 八戒の言うことには 一理あるんだけれど、
妖孤の気配を纏えるのは 妖怪だけだし、
悟空にはちょっと無理だと思うのね。演技面での誤魔化しが利かないでしょ?
奥さん役は いらないと思うけれど・・・・・・。」
「そういうことですか、まあ 申し出た以上はやらせてもらいましょう。」
と八戒の会話を聞いていた三蔵の眉間には 思いっきり深いしわが寄ったが、
八戒はあえて 見ない振りをした。
翌日。
の力で 妖孤の気を纏った八戒は、同様に気配を変えたと共に
結界内にある行方不明者が出ている森へと 入った見た。
同じの気を纏っているためか 本当の夫婦になったような感覚がする八戒。
以前にも味わったことのある 2人でいることの幸福感が 蘇ってくる。
こんな時に 花喃を思い出すなんて 僕もまだまだですね・・・・、
そんな事を考えていると
「八戒 辛い思いをさせてしまってごめんなさい。
八戒は私との一体感を 感じるくらいだけど、貴方を危険から守るために
私には 八戒の思うところが伝わるようにしてあるの。
だから もし攫われた後で 連絡を取ろうと思ったら 心で念じれば私には解るから、
だから 少しの間 思っている事は筒抜けだと思っていてね。」
さらりと言ったの言葉に 八戒は 苦笑をこぼした。
暫く 2人は山菜などを取ってすごした。
まあ 森に入るのに 村の者と同じ事をやっていなければ 怪しまれる。
「 昨夜の話し合いのときの三蔵の顔見ましたか?
僕とが 夫婦役をすると言った時の反応は 見ものでしたよね。」
八戒は 思い出して楽しそうに笑った。
その笑顔に もつられて笑顔になる。
「八戒ったら三蔵がいないのをいい事に そんなこと言っていいの?
まあ 三蔵は照れ屋さんだからそれで随分損をしているとは思うけどね。
あの顔と態度のわりには 扱いやすい人だったりするんだけどな〜。」
「こそ そんなこと言っていいんですか?
三蔵が 照れ屋になったり 扱いやすかったりするのは、貴女だけだと思いますよ。
悟空と悟浄には理解不可能だと思いますが・・・・。」
「そうかしら?」
「そうですよ。」
会話が聞こえなければ それは仲のよい夫婦が
微笑みあっている様にしか見えないだろうと、
思われるような2人だった。
少し離れた木の梢で 悟空はと八戒の楽しそうな光景を 見守っていた。
の頼みで 八戒が何者かに攫われた時に 追跡するために
待機しているのだったが その背には お弁当包みが2つ背負われている。
肩には 黒龍のリムジンが小さい姿で 寄り添っている。
連絡係として連れて来られていた。
「なぁリム、と八戒なんか楽しそうだねぇ。
俺がと一緒に居たいんだけどなぁ、こっちを頼まれちゃったし しょうがないか。」
肩のリムジンに話しかける。
悟空の頬に 頭を摺り寄せると のどを鳴らすリムジン。
「大丈夫 解っているって! 5人の中では俺が一番脚が早いし 目もいいもんな。
八戒を追跡するとしたら俺しかいないって事は が認めてくれてるんだ。
それにリムが一緒にいてくれるんだ 寂しくなんかないよ。」
リムジンののどを撫でてやりながら 悟空は八戒達から目を放さなかった。
その時。
一陣の風が 森の中を吹いた。
誰もがそうであるように 目を庇い顔に手をやって視界が一時途切れる。
も八戒も風にさらされていたために 同様にした。
が目を開けて 八戒がいたところを見ると そこには誰もいなかった。
「八戒?何処へいったの?・・・・・・・八戒!」
風から身体を庇ったほんの何秒かに八戒の姿はこつ然と消えてしまっていたのだった。
悟空、ちゃんと追ってくれているかしら・・・・・・。
は まず八戒の気配を追うが つかまらなかった。
次いで 悟空の気配も同様に探ってみるが
先ほど感じていた木の梢の所には気配がない、
「どうやらちゃんと追跡してくれているようね。
後は リムの連絡待ちという事になるから とりあえず帰ろうかしら・・・。」と
山菜の入った籠を持つと 村への道をたどった。
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